「老害」っていわれる"長年のクセ"──ベテランと若手がお互いラクになる4つの視点

オフィスの会議テーブルでベテラン社員を中心に若手社員たちが笑顔で会話しながらパソコン作業をしている様子世代を超えた職場のコミュニケーションイメージ

この記事を書いている私は、いわゆる「均等法第1世代」です。
入社した頃はまだ、
・「女の子なのに理系なの?」
・「総合職だけど、結婚したらどうするの?」
みたいな言葉がフツーに飛んでいた時代をくぐってきた側です。

なので正直に言うと、
「若い人から見たら、私も十分“老害候補”だよな…」と、自覚せざるをえない場面がたくさんあります。
「いやいや、自分で言うなよ」とツッコミつつも、そう思わざるをえない。そんな年頃です。

先にサクッと雰囲気を知りたい方は、こちらのショート動画からどうぞ。
▶ 退職あるある「長年のクセ」編|ショート動画はこちら

この文章での「老害」の定義

正直に言うと、この言葉をキーボードで打つたびに、
「いや、それほぼ私のことでは?」と、若干ザワついています。
書いている本人が、まさにど真ん中世代ですから…。

世の中的には「老害」という言葉は、
年長者の言動が、まわりや組織に悪影響を与えてしまっている状態
くらいのニュアンスで使われることが多いですよね。
年齢そのものというより、

立場や影響力がある人の“昔のやり方”が、変化や成長のブレーキになってしまっている状態
を指す、なかなかパンチのある言葉だと思います。

この文章の中では、もう少し中身をはっきりさせて、こんな感じで使います。

自分の価値観や昔の成功体験だけを「正解」とみなし、
目の前の環境や人の変化を見ないまま、
そのやり方を立場や影響力で押し通し続けてしまっている状態。

……書いていて、一文字ずつ私にも刺さっています。

ここで強調しておきたいのは、
・「シニア社員=自動的に老害」ではないこと
・どの世代でも、条件がそろうと「老害モード」になりうること
の2つです。

なので今回は、

どんなときに、誰でも「老害モード」に入りやすいのか?

をいったん分解して眺めてみる。
そのうえで、「じゃあどうすればそこから抜け出せるのか」を一緒に考えてみませんか、
というのが、このコラムの狙いです。

「老害」と言う前に、ベテランも若手もそれぞれモヤモヤしている

最近は、SNSでも「#老害」がひとつのジャンルになっています。
タイムラインを見ていると、
「こういう上司、いるいる…」「わかるけど、言葉キツいな…」と、
いろんな感情が同時に押し寄せてくる投稿も多いですよね。

その一方で、中高年側も、
「老害意見かもしれないけどさ…」と、自分で先に“老害ラベル”を貼ってからじゃないと、
若手に何も言えない、という空気も広がっているように感じます。

中高年の立場も、昔とはずいぶん様子が変わりました。
・一歩間違えると炎上する
・パワハラと言われないか常にソワソワする
・かといって黙っていると「何も言ってくれない」と言われる
……なかなか「どのギアに入れて走ればいいのか」つかみにくい年代ではないでしょうか。

一方で、若手の側も、決して気楽なわけではありません。
「状況が悪い」と言い切れるわけではないけれど、こんな感覚を抱えがちではないでしょうか。

  • 情報も選択肢も山ほどある
  • でも「何を信じて選べばいいか」はよくわからない
  • 「自律」「成長」「キャリア自分で設計」が標準装備になっている

つまり、若手の側には若手なりのプレッシャーがあって、
期待だけがどんどん増えていく一方で、
何をどう選ぶのが正解なのかは見えにくい。
そんな環境で日々走っているはずです。

ベテランも若手も、それぞれ別の理由で、
なんとなく落ち着かない・モヤモヤしやすいポジションにいる。

そのうえで、
「お互いに、ちゃんと話しているつもりなのに、なぜか届かない」
という、ややこしいすれ違いが起きているのではないでしょうか。

ここから先は、その「届かない感じ」の正体を、
均等法世代ど真ん中の私が、自分へのツッコミも込めて分解してみます。

老害っぽく見える背景は、「人が悪い」より“設定のズレ”

「なんか合わないな」「噛み合わないな」と感じたとき、つい、
・あの人、性格キツい
・価値観が古い
・最近の若者は…
と、“人柄の問題”にしてしまいがちです。
私も何度やらかしたか、数えきれません。

でも、少し冷静に分解してみると、
ベテランと若手のギャップの背景は、だいたい次の4つに集約されるように思います。

  • 価値観の違い:何を「正しい」「丁寧」「カッコいい」と感じるかの基準が違う
  • 時代背景の違い:育った社会・会社・テクノロジーの前提が違う
  • キャリアステージの違い:見えている景色が違う(山の上とふもと)
  • コミュニケーションの「クセ」:悪気なくやっている言い方・振る舞いのパターンが違う

つまり、出発点にあるのは「人間性が悪い」という話ではなく、
まずはOS(設定)が違うまま、同じ画面を見ようとしている状態ではないでしょうか。

この「設定の違い」そのものは、悪でも間違いでもありません。
むしろ、多様性そのものとも言えますよね。

ただ、その違いに気づかないまま、
・「自分の設定だけが正しい」
・「相手の設定はおかしい」
と決めつけて、立場や影響力で押し通してしまうと、
そこから一気に「老害モード」に近づいていくのだと思います。

だからこそ、「老害かどうか」というラベル貼りだけで終わらせず、
「設定の違い」をどうやって会話可能な状態にするか?
を考えていくほうが、ベテランにも若手にも、少し優しいのではないでしょうか。

ここからは、この4つのポイントごとに、ベテラン・若手それぞれへのヒントを整理してみます。

① 価値観の違いにどう歩み寄るか?

ベテラン世代へのヒント|「正しさ」は1個じゃなく、「バージョン違い」が並んでいるだけ

私たちの若い頃の「正解」は、だいたいこんな感じでした。
・手間をかける = 誠意
・丁寧さ = 信頼
・上司に相談 = 礼儀
これ自体は、今でも大事な価値観だと思います。
ただ、それが唯一の正解ではなくなっている、というだけかもしれません。

● 「自分の正解」にラベルをつけて話す

NG:「これが一番正しい」
OK:「私たちの時代は、これが正解だったんだよね」
たったこれだけで、押しつけ感はかなり薄まります。
「説教」から「当時の仕様の説明」くらいの温度に下がるイメージです。

● 価値観を渡すときは、「問い」とセットで

いきなり「こうしなさい」ではなく、
・「丁寧さって、今の現場だとどこまで必要だと思う?」
・「この仕事、スピードと正確さ、どっちを優先した方が良さそう?」
と“問い”を一緒に置いてみる。
それだけで、若手は「考えてもいいんだ」と受け取りやすくなります。

● 相手の価値観を一度認めてから、自分の話をする

「そのやり方って、“早く試してみたい”って価値観だよね。そこはいいね。」
一度“いいところ”を言葉にしてから話すと、
そのあとに続くアドバイスも、すっと入っていきやすくなります。
(ここは私も、毎回深呼吸しながら実践中です…。)

若手へのヒント|ベテランの価値観は「バグ」じゃなくて「昔の仕様」

ベテラン世代の言動は、「アップデートされていないアプリ」みたいに見えることがあるかもしれません。
ただ、当時の環境では、それがちゃんと動く「正解の仕様」だったはずです。

● 全部は受け取らなくていい。ただ「芯」だけ拾う

「手間をかける = 信頼」「丁寧さ = 誠意」みたいな“芯の部分”は、今でもそこそこ強い武器だったりします。
そのまま全部真似しなくてもよくて、
「どこなら自分の仕事に活かせるか?」だけ拾うイメージで付き合ってみると、ちょうどよくなるかもしれません。

● 価値観は否定せず、「今バージョン」に翻訳してみる

・「教えていただいた“丁寧さ”、メールだとこのくらいなら再現できそうです」
・「その気遣い、チャットならこんな感じでやってみてもいいですか?」

といった言い方にすると、ベテラン側も「自分の話を踏まえてくれた」と感じやすくなります。

「ありがとうございます」で会話を終わらせず、
「ありがとうございます、今のやり方にどう組み込めそうか考えてみます。」
と 1 センテンス足すだけで、
「ちゃんと受け取って、自分の頭でも考えている人」として見てもらえます。

② 時代背景の違いにどう歩み寄るか?

ベテラン世代へのヒント|自分の「当たり前」は、その時代だからこそ成り立った前提

私たちが新人だった頃は、
・電話・FAX・紙の書類
・残業は“根性”でなんとかする
・情報は「人に聞く」のが基本
…という世界でした。
その世界では、「先輩に聞く」「手書きで丁寧」が、確かに最適解だったように思います。

● 「昔はこうだった」は、背景説明として短く

「当時はネットがなくて、情報は人づてだけだったからね。
だから“先輩に聞く”が正解の時代だったんだよ。」

と、一言添えておくだけで、若手は
「あ、その前提ならそうなるよね」と理解しやすくなります。

● 「今の前提」を教えてもらうスタンスを持つ

「今はどういう情報源が多いの?」「そのツール、どこまでできるの?」と、こちらから聞いてみる。
時代差を“研究材料”くらいに軽く扱ってみると、自分の心も少しラクになるかもしれません。

「それ、全然知らないから教えて。私もアップデートしたい。
と言えるかどうかで、“老害候補”からかなり外側に出られる気がしています。
(均等法世代の私も、ここは毎日修行中です…。)

若手へのヒント|「なんでそんなやり方?」の裏には、その時代なりの「身の守り方」がある

正直、「なんであえてその手順?」「なんでそんなに慎重なの?」と
不思議に感じることもあるかもしれません。

その裏には、例えばこんな前提があったりします。
・ミスったらビンタ/怒鳴りが飛んでいた
・労働時間もハラスメントも、今よりずっとグレーだった
そういう環境の中で身につけた「身の守り方」が、
今の職場にもそのまま持ち込まれている、ということもあるのではないでしょうか。

● まず「当時の難易度」をイメージしてみる

「メールもチャットもない」「残業前提」「メンタルケアもない」。
そんな環境で生き延びてきた世代だと想像してみると、
「そりゃ慎重になるよね…」と、少し見え方が変わるかもしれません。

● 時代背景を聞き出す質問を持っておく

「そのやり方が一番よかった当時って、どんな状況だったんですか?」と聞いてみると、
説教モードから「昔話モード」に変わりやすくなります。
その中に、意外と“生きた知恵”が紛れ込んでいることもあります。

心の中では「それ、“昭和レジェンド版”ですね…」くらいに笑いつつ、
口では「今の環境だと、こう変えると早そうです」と、令和アップデート案を出してみる。
それくらいの温度感が、ちょうどいい折り合いかもしれません。

③ キャリアステージの違いにどう歩み寄るか?

ベテラン世代へのヒント|「7合目の景色」は正解ではなく「ひとつの登山記録」

山でいうと、私たちはすでに6〜7合目あたりにいるのかもしれません。
ふもとで迷いながら登っている若手とは、見えている景色が違うのは自然なことです。

ただ、ここで気をつけたいのは、
・「私たちが登ってきた山」と
・「今の若手が登っている山」
は、地形も天気も、けっこう違うということです。

ですので、このコラムで書いている「7合目からの景色」は、

「これが正解ルートだよ」という話ではなく、
「こういう山を、こういうルートで登った人の記録のひとつ」


くらいに読んでいただけると、ちょうどいいかもしれません。

● 山の上から「正解」を叫ばず、ふもとに「地図」を渡す

NG:「こう行けばいいに決まってる」
OK:「この辺が滑りやすいから気をつけてね」

「答え」よりも、「危ないポイント」や「遠回りの意味」を渡すイメージにすると、
押しつけ感がだいぶ減っていきます。

● 若い頃の自分を、ちゃんと思い出す

「自分も意味のわからない指示にイラッとしてたな…」
あの頃の自分の顔を一瞬だけ思い出してから話すと、
不思議と口調が柔らかくなったりします。

「今の自分からはこう見えるけど、今のあなたからはどう見える?」
と聞くだけで、上から目線ではなく「視点の交換」に近づきます。

若手へのヒント|ベテランは「別ルートを歩いてきた先行ランナー」くらいに見る

ベテランは、「自分とはまったく違う生き物」に見えることもあるかもしれません。
一方で、別の時代・別の条件で長く走ってきた“先行ランナー”でもあります。

● 「先のステージからの景色」だけでも盗む

「この仕事、5年後・10年後って、どんなスキルになってますか?」と聞いてみるだけでも、
キャリアの“先の地図”が少し見えてくるかもしれません。

● 今の自分の状態を正直に出したうえで、見え方を聞く

「今は目の前でいっぱいいっぱいで、先が見えてなくて…。上司にはどう見えていますか?」

こう言える若手は、「自分を客観視しながら成長しようとしている人」として見てもらいやすくなります。

一度「わかってくれない人」とラベルを貼ってしまうと、
その人の言動すべてが、そのラベルでしか見えなくなりがちです。

そうなる前に一回だけでいいので、
「たぶん何か意図はあるんだろうな」と仮置きして話を聞いてみる。
それだけでも、会話の温度が少し変わってくるのではないでしょうか。

④ コミュニケーションの「クセ」をどう更新するか?

ベテラン世代へのヒント|「老害」認定は、内容よりも「言い方のクセ」で決まりがち

悲しいことに、中身がどれだけ正しくても、
言い方が昭和のままだと、一気にアウトになってしまう場面もあります(自戒を込めて…)。

● 「断定」をやめて、「提案」に言い換える

NG:「そのやり方はダメ」
OK:「別のやり方もあるけど、比べてみる?」

文末を少し変えるだけで、「否定」から「提案」に見え方が変わります。

● 「代行」ではなく、「背中押し」に役割チェンジ

NG:「私が言っとくから」
OK:「どう伝えるか、一緒に考えよ。必要なら一緒に行くよ」

若手がほしいのは、「代理で戦ってくれる人」だけではなく、
「安心して前に出られるよう支えてくれる人」ではないでしょうか。

話し始める前に、心の中で「この話、1分バージョンで」と自分にツッコミを入れてから口を開く。
それだけでも、「長年のクセ」はだいぶ薄まっていくように感じています。
(これは完全に、私自身へのメモです。)

若手へのヒント|無理に「変わってください」と言うより、「付き合い方のコツ」を持っておく

正面から「変わってください」と言うのは、
お互いにとってハードルが高いコミュニケーションかもしれません。

● 心の中で「この上司はこういうタイプなんだな」とイメージしておく

たとえば、
・この話題になると長くなる
・お願いごとは、最初に背景を話した方が早い
など、自分なりの「上司の傾向メモ」を持っておくと、付き合い方の工夫がしやすくなります。

人は急には変わりにくいですが、
自分の付き合い方は、わりとすぐに変えられることも多いですよね。

● 伝え方を「正面突破」から「相談モード」に変える

NG:「このやり方の方が効率いいです」
OK:「この案も考えたんですが、リスクありますか?」

同じ内容でも、「対立」より「相談」に見える言い方に変えるだけで、
ベテラン側のスイッチが「敵」から「味方」に切り替わりやすくなります。

そして、うまくいったときだけでいいので、そっと報告しておく。
「この前のアドバイス使ってみたら、うまくいきました。」
たった一言ですが、人間、「効いた」と言われたパターンは自然と増やしたくなるものです。
ベテランの“良いクセ”が、少しずつ強化されていきます。

おわりに:山は登ったら、ちゃんと降りる。遭難しないベテランでいこう

よく言われますが、人生は山登りに似ています。
そして山は、「登ったら降りなきゃいけない」。
降り方がわからなくなって動けなくなった状態を、山では「遭難」と呼びます。

キャリアも同じで、私たちベテラン世代は、
すでに6〜7合目、あるいは山頂近くまで来ている人も多いのではないでしょうか。

・昔の成功体験だけを握りしめたまま動けなくなる
・役職や立場にしがみついてしまう
・若手との距離が怖くて、何も言えなくなる

こうして「もう一歩も動きたくない」と固まってしまった状態は、
キャリア版の“遭難”に近いのかもしれません。

だからこそ、私たちベテラン勢にエールを!

登った自分を誇りつつ、ちゃんと降りるルートも一緒に探そう。
老害じゃなく、「無事下山できるベテラン」でいよう。

若手に知恵を渡しながら、少しずつ役割をシフトしていく。
「昔はこうだった」と押しつけるのではなく、「今はどう?」と聞きながら一緒に更新する。
山の上から「正解」を叫ぶのではなく、「ここは滑りやすいよ」と地図を渡していく。

そんな“下山のしかた”ができれば、ベテランは「老害」ではなく、
最後まで頼られる案内人でいられるのではないでしょうか。

そして若手のみなさんには、こんなお願いです。

ベテランの「長年のクセ」にツッコミを入れつつでかまわないので、
ときどきでいいから、「この先の景色ってどう見えてますか?」と声をかけてみてください。

ベテランは、一歩分だけ歩み寄る。若手も、一歩分だけ握手してみる。
その一歩ずつのあいだにできた“半歩分のスキマ”こそが、
一緒に仕事がちょっと楽しくなる余白であり、

ベテラン世代が遭難せずに下山していける、細い山道なのかもしれません。

若手から老害予備軍まで、ひととおり経験してきた立場としての本音です。
この文章自体が「いや、それがもう老害なんだよ」と感じられた方は、
どうかそっと笑いながら、周りの誰かと「長年のクセ」と「下山ルート」の話をしてみていただけたらうれしいです。

その会話こそが、いちばんのアップデートであり、
ベテランも若手も、遭難しないための何よりのヒントになっていくのではないでしょうか。

投稿者アバター
後藤 直子
大企業から中小企業まで、多くの現場で“辞めたいのに辞められない”“助けを求められない”という声を聞き続けてきました。制度疲労した組織、仕組みが整わない職場、その狭間で苦しむ人を数多く見てきた経験から、「退職を安全に、そして前向きな再スタートにつなげられる仕組みが必要だ」と強く感じ、リスタート退職サポートを立ち上げました。働く人が安心して次の一歩を踏み出せる社会づくりに取り組んでいます。

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